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長距離オフライン通信 × LoRa P2P × Syncast

通信と距離の壁を突破する「インフラレス通信」への挑戦

「Syncast(シンキャスト)」は、インターネット接続がない環境でも、デバイス同士が直接通信(P2P)してデータを同期・共有できるソリューションです。

通常、Wi-FiやBluetoothを用いて近距離(数十メートル)での高速なデータ同期を行いますが、実社会のDX現場には山間部やトンネルなど「数キロメートルに及ぶ通信圏外エリア」が存在します。今回、私たちはこの課題に対し、省電力広域無線技術「LoRa」を用い、独自プロトコルによるP2P通信を実現。「インフラ不要」かつ「数キロメートル級」の超長距離双方向同期を可能にする通信基盤を検証しました。

検証サマリー

  • 検証結果: 都心ビル街(東京駅前;丸の内)でのLoRa P2P通信確立。
    携帯キャリア網やLoRaWANゲートウェイを一切介さず、端末同士が直接通信する「P2Pモード」にて、電波干渉の多い都心部で安定した通信に成功しました。
  • 技術的成果: Syncast向けペイロード伝送の実証。
    Syncastのデータ同期に必要な256バイトのデータ伝送を確認。独自実装により、遅延を感じさせないリアルタイム性を確保しました。
  • 適用可能性: 災害・へき地での双方向連携。
    現場間でのチャットや指示伝達といった双方向コミュニケーションが可能であることを実証しました。

背景:なぜSyncastに「LoRa P2P」が必要なのか?

現代の産業現場や防災BCPが抱える課題に対し、私たちは「距離」「インフラ」「方向性」の
3つの壁があると考えました。

1. 近距離無線の「距離の限界」

Syncastが従来利用してきたWi-FiやBluetoothは高速ですが、通信距離は最大でも数百メートル程度です。広大な建設現場や、拠点間が離れている山間部の集落など、物理的に距離が離れた場所同士を繋ぐには、新たな長距離通信手段が必要でした。

2. 携帯インフラの「圏外エリア」

長距離通信には携帯キャリア網(4G/LTE)を使うのが一般的ですが、山奥、トンネル、洋上など圏外エリアは依然として存在します。また、災害時に基地局がダウンした場合、既存インフラに依存する通信手段は機能不全に陥ります。

3. 既存LPWAの「吸い上げ主体」な設計

長距離通信が可能なLoRaWANなどのLPWA技術はありますが、その多くはセンサーデータをクラウドに吸い上げる(アップリンク)ことに特化しています。現場の作業員同士が連絡を取り合うような双方向同期には、標準仕様では不向きでした。

検証内容:LoRa P2Pによる独自通信システムの実装

本検証では、Syncastが持つデータ同期機能を長距離無線に乗せるための
独自プロトコルの開発・検証を行いました。
一般的なLoRaWANモジュールを独自に制御し、ゲートウェイ不要のP2P通信を実現しています。

システム構成:ゲートウェイレスな独自ネットワーク

LoRa P2P通信システム検証構成図
  • エッジ端末: Raspberry Pi + STMicroelectronics B-L072Z-LRWAN1
  • 通信方式: LoRa変調を用いた独自プロトコルでのP2P通信
  • 検証データ: Syncastのメッセージを想定した日本語含むテキストデータ

※ スケーラビリティに関する注記: 今回の実装は、特定の拠点間をつなぐP2P通信を想定しています。多数のエンドデバイス間で通信を行う大規模な構成においては、ゲートウェイを用いたネットワーク構築が推奨されます。

実装ロジック:Syncastのための通信最適化

1. LoRa P2Pモードの独自実装 通常はゲートウェイと通信するLoRaWANチップを、端末同士で直接通信できるようファームウェアレベルで制御。これにより、基地局設備が設置できない場所でも即座に通信網を構築可能にしました。
2. ペイロードの最適化 Syncast上の「テキストチャット」や「ステータス更新」を想定し、最大256バイトの日本語テキストデータの送受信を実装。
LoRaとしては比較的大きなサイズですが、独自チューニングにより低遅延での送信を実現しました。

実地検証結果:都心ビル街での通信テスト

電波環境の厳しい「東京都・丸の内エリア」にて、Raspberry Piを用いた通信テストを実施しました。
オフィスの立地特性を活かし、ビルが密集する実際の路上環境で検証を行いました。

検証データ詳細

通信環境 東京駅前のビル街(東京都千代田区丸の内)
通信距離 約 250 m
データサイズ 256 byte
遅延 (Latency) ほぼリアルタイム

考察:見通し通信への期待

ビルによる反射や電波干渉が多い都心の路上において、交差点間での安定した通信を確認しました。LPWAの特性上、障害物のない山間部や河川敷などの「見通し環境」であれば、数キロメートル級の通信が可能であることを強く示唆しています。

また、1秒間に256バイト程度のデータが送れる通信環境があれば、画像は送れずとも、チャット・位置情報・作業指示といった現場のコア情報の同期には十分実用的であることが実証されました。

Syncastの独自性と今後の展望

今回の検証により、SyncastはDitto(Wi-Fi/BLE)を活用した近距離通信に加え、
LoRaによる長距離の通信手段を確立しました。

既存技術との比較:Syncastは何が違うのか?

一般的なLoRaWANソリューション(クラウド集約型)と、今回のSyncast(エッジ分散型)の違いは以下の通りです。

比較項目 一般的なLoRaWANサービス Syncast × LoRa
(本ソリューション)
通信の方向 アップリンク主体
(センサー → クラウド)
双方向同期
(端末 ⇔ 端末)
データの場所 クラウド集約
(インターネット必須)
エッジ分散
(インターネット不要)
インフラ 基地局・ゲートウェイが必要 端末同士で通信可能
(P2P/Mesh)
主な用途 検針、追跡、環境モニタリング チャット、指示伝達、状況共有

今後の展望:「近距離」と「長距離」のベストミックス

私たちが描く次のステップは、「近距離」と「長距離」の通信をシームレスに統合する
ハイブリッドな通信環境(Syncast Hybrid Mesh)の実現です。

近距離 (High Bandwidth)

半径数十メートル以内では、Wi-Fi / BLEを使用します。

画像、音声、図面データなど、リッチな情報の高速同期を行います。

長距離 (Low Bandwidth)

数キロメートル離れた拠点間では、LoRaによる同期を行います。

テキストチャット、現在地情報、アラートなど、クリティカルな最小限の情報を確実に届けます。

クローズド環境とクラウド環境の比較図

また、図のように、物理的にクローズドな環境でもクラウドが前提の環境でも通信可能です。
工場内などのセンシティブなデータを取り扱う際は、その敷地内に閉じるネットワークの活用、
遠隔地でもデータを取り扱いたい場合は、クラウドを介した活用を想定しています。

ユーザーは通信手段を意識することなく、
近くの人とは画像を、遠くの人とは文字を「インターネットなし」で自然に共有できる。
この「途切れない接続性」こそが、Syncastが目指す災害に強い社会インフラの形です。


この技術を、一緒に育てませんか?

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